顔全体のバランスから考えるヒアルロン酸注入
「ほうれい線が気になるので、ここにヒアルロン酸を入れたい」
「頬のへこみが気になる」
「この部分に1cc入れたら、きれいになりますか?」
ヒアルロン酸注入のカウンセリングでは、このように具体的な場所や量についてご相談いただくことがあります。
もちろん、ご自身が気になっている場所は、治療を考えるうえでとても大切です。
ただ、実際にお顔を診察してみると、患者さまが気になっている場所と、治療を最初に検討したい場所が必ずしも同じとは限りません。
なぜなら、顔はひとつの部分だけで成り立っているわけではないからです。
ほうれい線は、なぜ気になって見えるのか
私たちの顔は、骨格、脂肪、筋肉、皮膚など、複数の組織が重なり合って形づくられています。
顔の脂肪も一枚の連続した組織ではなく、複数の区画(fat compartments)に分かれていることが解剖学的研究によって示されています1。さらに、顔の加齢変化は皮膚だけに起こるものではなく、骨格から深部・浅部の軟部組織まで、複数の層で生じます23。
そのため、例えば「ほうれい線が気になる」という場合でも、ほうれい線そのものだけを診るとは限りません。
頬のボリュームや骨格、口元、輪郭とのつながりなども確認しながら、
「なぜ、ここが気になって見えるのだろう?」
と考えていきます。
ヒアルロン酸注入においても、ひとつのしわやくぼみだけを見るのではなく、顔全体の構造やバランスを評価して治療を組み立てる「whole-face approach」という考え方が報告されています4。
正面だけでなく、斜め・横、そして表情も見ます
診察では、正面から見たお顔だけで治療を決めるわけではありません。
正面から見たとき。
斜めから見たとき。
横から見たとき。
そして、笑ったとき。
角度や表情が変われば、お顔の印象も変わります。
私たちの顔は、日常生活の中で静止している時間よりも、話したり笑ったりして動いている時間のほうが長いものです。
そのため、注入治療でも静止した状態だけではなく、表情を含めてお顔を見ることを私は大切にしています。
近年のヒアルロン酸治療でも、顔を部分の集合としてではなく全体として評価し、静止時だけでなく動きの中での見え方まで考慮することの重要性が論じられています4。
「何cc入れるか」だけでは、治療は決まりません
ヒアルロン酸注入について、
「1ccで足りますか?」
「何本入れれば変わりますか?」
というご質問をいただくこともあります。
もちろん、使用する量は大切です。
けれども、同じ1ccでも、どこに、どの深さに、どのような製剤を使用するかによって治療内容は大きく変わります。
現在、ヒアルロン酸製剤にはさまざまな種類があります。
一見すると同じ「ヒアルロン酸」ですが、製剤によって弾性や粘性、変形に対する性質などの物理的特性が異なり、それぞれ異なる組織内での振る舞いを示すことが報告されています5。
実際に、NASHA®やOBT™といった異なる技術で製造されたヒアルロン酸製剤を比較した研究でも、製剤によってfirmness(形を保つ性質)やflexibility(変形への追従性)などに違いが認められています6。
VYCROSS™技術を用いたヒアルロン酸製剤についても、製品ごとに異なる特性を持ち、それぞれの目的に応じた使用が検討されています7。
つまり、ヒアルロン酸治療は単純に「何cc入れるか」だけでは決まりません。
どこに、どの層へ、どの製剤を、どのくらい使用するのか。
お顔の状態と治療の目的に合わせて、それぞれを考える必要があります。
「気になる場所と」、「治療したい場所」は同じとは限りません
患者さまが「ここが気になる」と感じていることは、治療の出発点です。
でも、そこへすぐにヒアルロン酸を注入することが、必ずしもその方にとって最適とは限りません。
De Maio医師が提唱したMD Codes™も、個々の線や溝だけを治療するのではなく、顔を複数の解剖学的な単位として評価し、患者さまが希望する変化を実現するために治療部位を組み立てていく考え方のひとつです8。
だから私は、まず、
どこが気になっているのか。
そして、
なぜそこが気になって見えるのか。
さらに、
どこを治療すると、お顔全体がより良いバランスになるのか。
この順番で考えることを大切にしています。
お一人おひとりに合わせたヒアルロン酸治療を
同じ年齢でも、骨格も、脂肪のつき方も、表情の動きも違います。
これまで受けてきた治療も違えば、「どうなりたいか」も一人ひとり違います。
だからこそ、ヒアルロン酸注入では、誰にでも同じ治療を当てはめることはできません。
患者さまが気になっていることを丁寧に伺い、実際のお顔をさまざまな角度や表情で診察する。
そのうえで、お顔全体のバランスを考えながら、その方に必要な治療を組み立てていく。
「気になるところをただ埋める」のではなく、その方のお顔に合った変化を考える。
それが、私がヒアルロン酸治療で大切にしていることです。
出典・参考文献
本文中の番号と対応しています。
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Rohrich RJ, Pessa JE. The fat compartments of the face: anatomy and clinical implications for cosmetic surgery. Plast Reconstr Surg. 2007;119(7):2219-2227.
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Cotofana S, et al. The Functional Anatomy of the Deep Facial Fat Compartments: A Detailed Imaging-Based Investigation. Plast Reconstr Surg. 2019.
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Swift A, et al. Treating Aging Changes of Facial Anatomical Layers with Hyaluronic Acid Fillers. Clin Plast Surg. 2021;48(4).
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Lipko-Godlewska S, et al. Whole-Face Approach with Hyaluronic Acid Fillers. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2021;14:169-178.
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Sundaram H, et al. Biophysical characteristics of hyaluronic acid soft-tissue fillers and their relevance to aesthetic applications. Plast Reconstr Surg. 2013.
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Differentiation of NASHA and OBT Hyaluronic Acid Gels According to Strength, Flexibility, and Associated Clinical Significance. J Drugs Dermatol. 2024;23(1):1332-1336.
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Goodman GJ, Swift A, Remington BK. Current Concepts in the Use of Voluma, Volift, and Volbella. Plast Reconstr Surg. 2015.
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de Maio M. MD Codes™: A Methodological Approach to Facial Aesthetic Treatment with Injectable Hyaluronic Acid Fillers. Aesthetic Plast Surg. 2021;45(2):690-709.